
「伊豆の踊子」を巡る旅
この記事は、2012年11月以前のY'S GEAR CLUBの記事です。
自然が溢れ、温泉地としても人気観光スポット・伊豆。
85年前、この地で川端康成がひとつの名作を発表した。
その舞台を「YZF-R1」で巡る冬の女一人旅が始まる。
今回の目的地は静岡県伊豆半島。人気の観光スポットであるこの地は、文豪・川端康成が愛した場所でもある。彼の代表作のひとつに一高生「私」と旅芸人一座の踊子との交流を描く『伊豆の踊子』がある。その舞台を旅のルートに選んだ。旅を共にするのは、パワフルさと乗りやすさを備えたスーパースポーツバイク「YZF-R1」。こだわり派の彼女は赤×白のストロボ外装セットでドレスアップし、文学の旅路を走り始めた。
東名沼津I.CからR414へ。そこから1時間強の道のりを快調に走る。そして最初に訪れたのは、川端康成がこの小説を執筆した宿として知られる湯ヶ島温泉の旅館「湯本館」。創業100年を超える老舗旅館で小説の中でも「私」が二度目に踊子を見た場所として登場している。旅館へと入ると踊子の踊った玄関の板敷や川端康成が執筆に使った部屋など、当時の趣があちらこちらに残されていた。漂ってくる文学の薫りに旅女の秋江は「旅のつかみはOK」とばかりに心躍らせながら、次の目的地へとバイクを走らせた。
湯ヶ島温泉にある明治5年創業の老舗旅館「湯本館」。
川端康成が『伊豆の踊子』を執筆し、その後も長期逗留した宿として有名。
館内にはゆかりの品や資料が飾られ"川端ワールド"を堪能できる。川端はこの湯ヶ島をこよなく愛し、「湯ヶ島は私の第二の故郷と思われる」と『湯ヶ島の思ひ出』でも述懐している。
(左・中)川端氏が階段で撮影した一枚。同じ場所に座ってみて歴史を感じてみる。(右)川端氏の書「有由有縁」。海外からもこの書を見学しに来る方もいるらしい。
湯本館から走ること数分。「浄蓮の滝」に着く。幅7m、高さ25mの玄武岩を流れ落ちるこの滝は、日本の滝百選にも名を連ねている。また、小説にその名は出てこないが、冒頭に出てくる天城峠付近にあり、「伊豆の踊子」像が立っている。その像はバイクを停める駐車場横にあった。彼女は像をみた後、石段を下りて滝の見学へ。勢いよく流れ落ちる滝を前に「空気が清々しくて気持ちいい」と大きく深呼吸し、その場所をあとにした。
「浄蓮の滝」の降り口にある「私」と踊子の像。
(左)日本の百選のひとつである「浄蓮の滝」は、天城峠付近にある。(右)天城の山々を指差す「私」と同じポーズで彼女も記念撮影。
浄蓮の滝は、伊豆市湯ヶ島にある滝。玄武岩の岩肌を幅7m高さ25mに渡り流れ落ち、「日本の滝100選」にもその名を連ねている。また脇には清流で育つ「ワサビ田」が広がる。風情を感じる景色。
「私」が踊子たちを追いかけながら潜り抜けた旧天城トンネルが、次の目的地。石造りのトンネルはとても風情があり、中へ入ると暗くて冷んやりした空気が流れていた。そして、トンネルの先に見える出口の小さな光。「小説の中の風景と同じ体験をしている」と彼女も満足の様子でトンネルを抜け、最後の目的地へ向かう。
伊豆を代表する観光名所でもある「旧天城トンネル」。
1905年に完成し、全長455.5m。石造りトンネルで、その造りの随所に明治時代の職人の技とこだわりが見える。
最後は小説の中心舞台となった湯ヶ野温泉「福田家」を訪ねた。ここの滞在中に「私」が、共同浴場から踊子が裸で手を振るのを見た場面は有名だ。玄関脇の踊子像をはじめ、川端康成が宿泊した部屋が当時と同じ状態で残されていたりと、小説の世界を堪能できる。「物語の中へタイムトリップしたみたいで楽しかった」と彼女。今回も満足の旅となったようだ。さて、次に彼女はどの作品の地を巡るのか…お楽しみに。
『伊豆の踊子』で「私」(川端康成)が3泊した湯ヶ野温泉「福田家」。
「福田家」の橋から湯ヶ野温泉の街並みを見る。(※敷地内へのバイクの乗り入れは撮影許可を得ております。)
「福田家」の玄関前にある踊子像をかたわらにひと休み。
「私」が泊まった部屋で『伊豆の踊子』を読む。以前とはと違う新たな感動が生まれる。
(左)レトロな宿に彼女のこだわりのヘルメットがよく映える。(中・右)宿には川端康成の資料が多数展示されている。